最近、シャープと鴻海精密工業の提携の話が、
日経新聞などで大きく取り上げられるようになりました。
皆さんは、この鴻海という会社をご存知でしょうか?
鴻海は、郭台銘(英語名Terry Gou)現会長が、
彼がまだ24歳だった1974年に台北市郊外の土城区に設立した台湾メーカーです。
設立当初は、従業員わずか10名。テレビのプラスチック部品から始まりました。
彼は1988年にまだ発展途上だった中国へ生産拠点を移転していくことを決断。
1990年代から、日本では「中国は世界の工場」と言われるようになりましたが、
実際に中国を世界の工場に押し上げていった立役者は、
こうした台湾企業・台湾資本だったりします。
その後、大手メーカーから生産を受託するEMSという形態で世界の覇者となり、
話題のiPhone, iPod, iPad, NintendoDSなど、
世界で新たな文化を築いた製品は、鴻海によって生産され、
世界に送り出されてきました。
その鴻海は、郭台銘会長のもとで大きな企業グループを形成しています。
鴻海グループの名称は、鴻海科技集團。英語でHon Hai Technology Groupです。
Hon Hai(ホンハイ)というのは、「鴻海」の中国語読みで、
そのため、最近日本でも「ホンハイ」というカタカナ表記をされることもあります。
中国語を習っている方は、鴻海のピンインはHong Haiじゃないのかと
言われるかもしれませんが、なぜHon Haiとしたのかは、よくわかりません。
その中核となる電気・電子産業を扱っている会社が、
鴻海精密工業(台湾での名称は「鴻海精密工業股份有限公司」)です。
英語名は、Hon Hai Precision Industry。
今回のシャープへの資本参加で取り上げられている企業です。
鴻海精密工業は、台湾の外では、”Foxconn”という企業ブランド名で活動をしていたため、
海外では、Foxconnが企業名として語られることも少なくなりません。
また、このFoxconnに相当する中国語名もあり、それが富士康科技集團です。
ややこしいですが、
鴻海精密工業=Foxconn=富士康科技集團
と理解してしまって、大丈夫です。
世界における鴻海精密工業のポジションを見るために、
世界の主要な電気メーカーの時価総額(6/29末時点)を円建てで比べてみました。
※単位:百万円
鴻海精密工業の時価総額は、日本の主たる電気メーカーの時価総額より高く、
今回提携相手のシャープと比べると、約5.8倍の差です。
さらにアジア勢では、韓国のSAMSUNG、台湾の半導体製造会社TSMCが、
鴻海の時価総額を遥かに超えています。
SAMSUNGとスマートフォン戦争を繰り広げるAPPLEや、
世界の総合電機メーカーGEは、さらにその上を言っています。
TSMCや鴻海以外の台湾勢もその存在感を増しています。
携帯電話メーカーのHTCは、富士通を超え、ソニーを狙っています。
PCメーカーのASUSも、シャープを超え、さらにAUOやACERも後ろに控えています。
では、そのような台湾企業が絶好調なのかというと、
実はそういうわけでもありません。
これは鴻海精密工業の株価推移です。
2007年までは世界の好景気に合わせて株価は上昇したものの、
サブプライム問題、リーマンショックで、株価は下降し、その後低迷。
鴻海は自社ブランド製品製造ではなく、OEM生産のため、
ブランド保有メーカーの販売が落ち込むと、自ずと売上が減少してしまいます。
そのため、鴻海にとっての大きな経営課題は、
「上昇する深圳の人件費に対処するため生産拠点を中国内陸部へシフト」
「自社独自の能力を向上させるための技術力の確保」です。
この今回の技術力確保の命題は、かつてのSAMSUNGを彷彿させるものがあります。
SAMSUNGは、1990年代から、
従来のOEM生産ではない、自社の技術力向上へと大幅に舵を切り、
アジア通貨危機後には、その方向性を強めていきます。
自社のR&Dに莫大な投資をし、日本の電機メーカーの従業員を引き抜いたりもしました。
今回、SAMSUNGに対する対抗心を明確にする鴻海は、
この技術力向上をスピーディーにシャープとの提携によって実現しようとしています。
これが、鴻海がシャープ提携に託す狙いです。
一方で、シャープの狙いは何でしょうか。
シャープの経営状況はあまり芳しくはありません。
シャープは数年前までは、「液晶のシャープ」というブランドで、
液晶パネルや液晶テレビで天下を築き、
「シャープ亀山工場」は、日本国内への製造業拠点回帰の象徴とも言われました。
そのシャープは、2012年3月期の決算で、
売上高が3兆219億(2011年3月期)から2兆4558億(2012年3月期)と大幅にダウン。
当期純利益が194億(2011年3月期)から、マイナス3760億(2012年3月期)へと大赤字へ転落。
特に、「液晶のシャープ」だったはずの液晶パネルと液晶テレビのAV機器は、
大きく売上を落とし、営業利益が大きな赤字となっています。
※出典:シャープ「決算補足資料」
シャープは、ここ数年、電子部品を主戦場と捉え、
設備投資を電子部品事業に集中させてきました。
(設備投資のうち81.4%が電子部品事業への投資)
しかし、その事業で赤字となっているため、改善が急務となっています。
この状況の打開策として、シャープは経営戦略として2つの柱を発表しています。
※出典:シャープ「経営戦略説明会」資料
1. 鴻海精密工業(鴻海科技集團)との提携
- スマートフォンの製造単価を削減し中国市場を開拓
- 液晶パネルを生産する堺工場(堺市)の運営子会社への出資要請
- (記載はないが)シャープ本体への出資も要請(9.871%)
2. ユニーク商品の創造
- 会話ができてプラズマクラスター搭載のお掃除ロボット(ルンバと同種)
この中で、同時に海外売上比率をさらに高めて行くという計画と合わせて考えると、
特に、上記の戦略1が最重要であると言えます。
これが、シャープが鴻海との提携にかける狙いです。
日本にいると、国内勢のシャープの打開策として取沙汰されるシャープと鴻海との提携。
しかし、グローバルの観点から見ると、
鴻海とSAMSUNGとの間で繰り広げられるグローバル競争の中に、
シャープが巻き込まれているとも言うことができます。
シャープにとって、すでに世界で巨大な存在となっている鴻海との提携は、
自らの技術やリソースを世界市場に展開するための強力な手段となりえます。
グローバル企業へと転じていくパートナーとして鴻海をとらえるか、
資金を提供してくれて生産コストを削減するパートナーとして鴻海をとらえるか、
はたまた、技術力の低い相手に対しての先輩・後輩という見方で鴻海をとらえるか。
日本企業のグローバル化にとって重要なテーマを、
このシャープと鴻海の提携は示してくれているように思います。