日本に帰国してから、以前の仕事柄、
日本の大手企業のグローバル人事制度について、
友人から話を聞いたりする機会が多くあります。
しかし残念ながら、うまくいっていないケースの話を耳にすることが多いです。
例えば、先週、日本を代表する大手総合商社のグローバル人事を担当している友人は、
「基本的に海外でも日本語の話せる外国人しか採用していない」
「日本人と外国人の人事制度は分断していてグローバル規模の戦略的異動はできない」
「優秀な外国人は早く辞めていく」
と話していました。
総合商社といえども、社内のHRがグローバル体制にはなっていないと嘆いていました。
一方で、欧米企業のグローバル企業では、
国から国へと渡って昇進・昇格をしていくというケースが少なくありません。
どこにそのネックがあるのでしょうか。
僕は、そのネックは、
日本の「本社中心人事制度」にあるのではないかと思っています。
日本は高度経済成長期の頃から、本社中心のHR体制を作ってきました。
大きな会社では、子会社から本社へ異動することはまずありません。
本社から子会社への異動はありますが、
多くは年を取ってからの片道切符で、最終的には給与削減前提での転籍となります。
もちろん、最近では、若手の子会社への出向も増えてきました。
その場合は、日本特有の「出向」という制度を使います。
出向では、グループ本社と子会社の人事制度の不一致を気にすることなく、
従業員を子会社へ異動させることができる便利な制度です。
出向の際には、グループ本社と子会社の給与格差分は、本社が負担したり、
ときには、給与をグループ本社と子会社で折半して出し合って、
出向の受け入れを容易にしたりします。
しかしながら、子会社から本社への出向という話もあまり聞きません。
このように、日本では、グループ本社の給与水準を高くし、
そこから低いところへ流れて行く仕組みを作ってきました。
そして、この「低いところ」を作るためにも、分社化して子会社を作るということも
行ってきました。
このように「本社から低いところへ」という流れと、
グローバルHR体制の考え方とは相容れないところがあります。
例えば、日本の海外法人(特にアジア諸国)では、
アジア諸国子会社の給与は
日本のグループ本社の給与より低いことを前提に作られています。
そこに派遣される日本人社員は、「出向」という便利なシステムを使い、
本社の人事制度や給与水準を維持したまま、海外へ赴任します。
つまり、この流れは、これまで日本企業が何十年と培って来た
「高みのグループ本社から子会社へ」という考えた方を転用して運用しているのです。
このような状況で、
グループ内で、外国人社員も含めたグローバル異動システムを作るには、
日本のグループ本社で外国人を採用しなければなりません。
しかし、その前には、
「わざわざ外国で働く社員をなぜ日本の本社で採用しなければならないのだ」
「アジア子会社は人件費コスト削減のために作ったのに、なぜ人件費を上げるのだ」
「日本採用するのであれば、日本語が話せることが前提だ」
という反対が待ち受けています。
また、グローバルでグループ従業員を企業をこえて異動させるには、
グループ企業を上下関係ではなく「同等」に見て行く必要があります。
しかし、これまでグループ本社中心のHR体制を培ってきた日本企業では、
グループ本社と海外事業子会社を「同等」に見ることがすんなりとはいきません。
一方、以前、僕の顧客であったフランス大手自動車部品メーカーは、
「日本の従業員がどんどんフランス本社に引き抜かれるので、採用活動が終わらない」
と嘆いていました。
これはこれで、日本法人からすると可哀想な話ですが、
このメーカーではグローバル規模の異動がすんなりできてしまう、
しかも海外現地採用の従業員をグループ本社にすぐに転籍させてしまうことができる、
そのような体制ができているという証でもあります。
HR体制のグローバル化を阻んでいるものの本質には、
日本が何十年も培って来た「本社中心の出向制度」にあるのではないでしょうか。
根が深いところに課題がありそうです。