日本に帰ってきて、より日本企業が国外市場で苦戦しているニュースを
よく耳にするようになりました。
そこで、Thunderbirdで学んだことや、アメリカやインドで見聞きして来たこと、
海外の友達とたくさん議論したことなどを題材に、
日本企業がグローバル市場で勝つための条件をまとめてみました。
1. 現地のニーズを何よりも最優先する
マネジメントやマーケティングの世界で必要性が叫ばれるローカライゼーション。
残念ながら、このローカライゼーションは日本企業は苦手のようです。
日本企業は、どうしても国内で成功した経験が忘れられません
国内で必要とされた機能。
国内で必要とされた品質。
国内で必要とされたアフターサービス。
国内で必要とされた製品ラインアップ。
こうしたものが頭から離れられないようです。
状況によってニーズは違うと頭ではわかっていても、
「きっと日本のものを世界はそのうち欲しがるはずだ」という感覚が、
頭から抜けきれない企業がたくさんあるようです。
さらには、「日本で成功したモデルを海外に展開したい!」と
変に意気込んでしまい、海外のニーズに適応せず、固執している企業もあります。
また、新興国市場においては、現地の多くのニーズを無視し、
「とりあえず富裕層を相手に」というかたちで市場への進出を果たそうとする
日本企業の話もたくさん耳にします。
しかし新興国市場の富裕層はごくごく限られた層で、
今後、新興国市場を席巻できるかどうかは、
その下の層をどれだけ取り込めるかに、かかっています。
また、富裕層を対象にした市場は、欧米企業も狙っており競争が激しく、
簡単に勝てる層ではありません。
このような話をすると、「富裕層以外は利益が出ない」という反論をする人もいますが、
これも基本的に考え方が誤っています。
新興国市場を手に入れるためには、彼らが買うプライシングをした上で、
それでも利益が出るように、製品の設計、素材選定、部材選定、量産開発設計を、
あらためてやり直していく必要があるのです。
同じやり方をしていては、低価格ゾーンで利益がでないのは当然で、
それをやり直せるかどうかで、新興国市場で勝てるか否かは変わってきます。
2. 海外法人のトップを現地化する
海外法人のトップをどうしても日本人にしたがるのも日本企業の特徴です。
日本人の方が本国とのコミュニケーションがスムーズにできたり、
日本の考え方を現地に移植するのが容易だという発想はわかります。
しかしながら、現地のニーズを最優先に考えるという考え方に立つと、
日本人より現地の人の方が、顧客の状況や、商慣習などを理解しやすいのは明らかです。
また、日本人を現法トップに据えた場合、
どうしても本社の担当役員や上司の意見を気にしてしまい、
意思決定が遅れ、日本とは違う大胆な業務の変化を起こせなくなってしまいます。
現地のことは現地に任せるという覚悟を本社ができるか、
任せられる現地の人材をトップとして採用できているかどうか、
このあたりが大きなカギをにぎります。
3. 世界市場でのマーケットシェア目標を置く
日本企業の海外進出の様子を見ていると、
その動機がよくわからないことがあります。
ありがちな動機としては、
・国内市場が飽和しているので、海外進出が欠かせない
・アジアの経済発展の波に乗りたい
・競合も中国に進出したので、当社も中国へ行く
などがあります。
しかし、それでは、海外でどのぐらいのシェアをとり、
どのような規模をめざし、どのプレーヤーを競合と位置づけるのか、
これらの問いに答えられない企業はたくさんあります。
ゴールが明確でない事業は失敗します。
これでは、現地法人と本社の意識を合わせ、経営資源を投入することはできません。
世界でもマーケットシェア1位を目指す。
それぞれの進出国でマーケットシェア1位を目指す。
このような気迫が無ければ、海外や現地の企業に気合い負けします。
4. 海外担当役員や海外事業部を廃止する
海外担当役員や海外事業部というものは、
そもそも「国内」と「海外」を別物としてみるという発想から生まれています。
しかしながら、グローバル競争が始まっている中、
販売だけでなく、調達、開発、生産まで含めて、
コスト戦略を考えなければなりません。
そんな中、国内と海外でマネジメントを分けていては、
グローバル規模での最適化を妨げ、競争力を削ぎ落していきます。
昨今の他国のグローバル企業の潮流としては、
製品やサービスごとに役員を置き、その役員が国内も海外も全てみるという体制です。
こうすることで、商品を軸として、新たな市場に展開していくスピードが速くなり、
国を超えた規模の大規模な最適化戦略を構築することができます。
国内と海外に担当が分かれていては、
「日本側が協力しない」「利益率の低い海外事業部が国内の開発部門の労力を削ぐ」
といった相互批判が組織内で巻き起こり、
それを解決するためには、
いちいち役員会議で議論をするしかないという事態となります。
5. 英語コミュニケーションを前提とし社員教育を考える
英語公用語化については、いまだに日本国内で賛否があるようです。
しかしながら、
グローバル体制の中で、組織間のコミュニケーションを円滑化させるためには、
英語を公用語にするのが一番です。
特に、上述したように、現地組織のローカライゼーションを進めた場合、
日本側でも英語対応ができていないと、ますますスピードを遅らせてしまいます。
もちろん、外国人の日本語人材を採用するという方法もあります。
しかしながら、実態として、日本語人材は英語人材よりも圧倒的に数が少なく、
そもそも採用の際の母集団を著しく小さくします。
これでは、語学以外の人材の質の面で、英語公用語企業に太刀打ちができません。
日本企業の中では、海外現地法人内での昇格においても、
日本語能力を必須としているところが少なくありません。
実際にこのような企業では、日本語能力の必要性を感じない現地の優秀層が、
他の英語企業へと転職していくということが起こっています。
サムスンやLGなど韓国の大手企業では、
組織長になるためには英語能力が必須という社内規定があります。
そのため、従業員は必死に英語を学習しています
サンダーバードの企業研修プログラムを受講しているのも、
圧倒的に韓国企業が多く、毎年多くの人が韓国からアリゾナに来て約2週間滞在し、
英語漬けの生活を送るところまで、覚悟を決めた研修も開かれています。
6. 本社の経営陣に外国人を入れる
最終的に海外市場にどれだけの経営資源を避けるかどうかを判断するのは、
本社の経営陣です。
その経営陣が、日本人だけで占められていては、
国外の情勢に敏感に反応できません。
本国の経営陣が異文化を受け入れる覚悟がなければ、
企業内の他の組織が異文化を受け入れたり、
異文化をターゲットにした販売戦略を立てることはできません。
中国で躍進しているレノボや百度は、ソニー元CEOの出井氏を取締役に迎えています。
このように、他国では、外国人が経営に参加しているケースが珍しくありません。
取締役のレベルは難しかったとしても、執行役員や事業部長など、
本社の事業レベルでの意思決定機関に最低1人でも外国人を入れられるかどうか、
このあたりで、企業そのものをグローバル化させられるかどうかが変わってきます。
経営陣やマネジメント層に海外の人を入れられない大きな理由は、
「日本語ができない人がいると会議が運営できない」というものです。
このようなことを言っていては、グローバル市場では勝てません。
国外の市場に適用するために変わらなければいけないのは、
国外の市場や外国人ではなく、日本人自身なのです。
7. 「日本のために」「日本はすごい」と言わない
最後がこの「日本」「日本」と言わないということです。
日本人は常に日本に誇りを持とうとし、日本経済のために頑張ろうとし、
日本企業が海外で名声を挙げるために頑張ろう!と、
士気を挙げようとしていたりします。
しかしこれではグローバル企業にはなれません。
日本のためにと言われて、中国人やインド人やアメリカ人が頑張れるでしょうか。
日本は最高だと言われて、メキシコ人やトルコ人がその企業を愛せるでしょうか。
日本経済のために頑張ると思っていては、その企業は海外市場で強くなれません。
自社の商品や製品を通じて、
国籍を問わず顧客を幸せにしていくんだという意気込みでなければ、
グローバル企業とは残念ながら言えないのです。
これが実際に1年9ヶ月、日本を離れてみて、自分なりに考えたことです。
最後に、韓国企業にどうして日本企業が勝てないのかについては、
以下の本がとてもまとまっていて参考になりました。
日本人でありながら、1990年代からサムスン本体の常務となり、
サムスンの躍進を担って来た吉川氏の著作です。
ぜひ読んでみてください。