以前のブログでも紹介しましたが、
ただいま、「Country Risk Management」というクラスを受講しています。
この講義を担当しているWetzel教授は、元ベテランCIA情報分析官。
ロシア方面を専門とされていたようですが、彼女の知識はほぼ世界を網羅しています。
最近は、レバノンなどの中東エリアに関心があるようで、
レバノンへのフィールドトリップ(Winterim)などの責任者も担当しています。
このクラスでゴールは、「自分でカントリーリスクを分析できるようになること」です。
カントリーリスクをより具体的に説明すると、
国ごともしくは国内の地域ごとの政治状況や社会状況がビジネスや投資に与えるリスク
のことを指します。
戦争や資産国有化による企業資産の減損や、売上の減少は、
カントリーリスクの典型的な例です。
1980年以降、ビジネスがグローバル化するにつれて、
このカントリーリスクを分析する様々なフレームワーク(モデル)が開発されてきました。
代表的なモデルとしては、
・Economist Intelligent Unit
・International Country Risk Guide
・Business Environment Risk Intelligence
・Political Risk Services
があります。
クラスの課題では、自分の関心のある国をひとつ選び、
それぞれのモデルを使って分析をしていくことが課せられています。
僕はインドを選択していますが、
他のクラスメートの中では、
韓国人留学生が北朝鮮を、また別の韓国人留学生はイギリスを選択していますし、
台湾系アメリカ人学生は日本を選択していたりします。
それぞれのモデルの中身としては、
上記のどのモデルも、政治、社会、経済の3つパートから構成されています。
例えば、上記の4つのモデルの原点となっている、
1986年のEconomist誌のモデルは、以下の項目から構成されています。
政治リスク
・超大国や破綻国家との近接性
・民主化の度合い
・政治体制の寿命
・政治体制の正統性
・軍部のパワー
・武装闘争や戦争の有無
社会リスク
・都市化の度合い
・イスラーム原理主義の存在
・腐敗
・民族、宗教、人種の社会的緊張
経済リスク
・人口一人当たりGDPの下落度合い
・インフレ率
・資本逃避の度合い
・GDPに占める外債の度合い
・人口一人当たり食糧生産の下落度合い
・対外輸出に占める一次産品の度合い
このモデルには穴が多く、その後改編がなされ、
上記で紹介したような4モデルが今日代表的に使われています。
クラスの課題では、各項目を自らの力で情報収集し、
情報をまとめあげていくことが要求されています。
そして、元CIA分析官として活躍されていたWetzel教授の真骨頂は、
この情報収集および分析手法に対する厳しい基準にあります。
学生は、各分析機関が出した専門レポートを参照することを禁じられています。
それは、その専門レポートが参照している一次情報に自ら接し、
既存のレポートをを超える水準のものを作り上げる作業を、
学生に要求しているからです。
また、情報のリソースについては、常に「懐疑的であれ」と指導しています。
いかなる情報源にも、その情報源なりの「利益構造」が絡んでおり、
どの情報もバイアスがかかっているためです。
バイアスがない情報を探すのではなく、
それぞれの情報源にどのようなバイアスがかかっているかを意識しろということです。
また、オーソライズされていないリソースを鵜呑みにしてはならず、
必ず複数の情報源を参照し、裏をとれということも、毎回の授業で伝えています。
分析の際には、
「直感も大事だが、なぜその直感を得るに至ったか」について
自分の思考を深掘れとも言います。
また、カントリーリスクマネジメントを分析する目的では、
「善悪の判断を差し挟むな」「常に何がビジネスにとってリスクなのかに集中しろ」と
学生を叱咤してもいます。
このような、ある意味「冷酷たらん」とする分析官の姿からは学ばされることが多いです。
意志決定のメカニズムを、「インプット→解釈→アウトプット」としたときに、
最初のインプットでは、確からしい情報を徹底的に追及することは、
企業経営においてもとても重要です。
このインプットを誤ると、解釈、アウトプットが大きく狂っていくからです。
僕の大学時代にも、日本の「インテリジェンス」として活躍されていた、
佐藤優・元外務省主任分析官から、半年間、
国際情勢とインテリジェンスについて学んだことがありましたが、
今回のWetzel教授と似た迫力を感じました。
短絡的な結論に落ち着けることはなく、常に、
「なぜ」「なぜ」「なぜ」と背後関係や利害関係、人物評価や状況分析などを
網羅的に探って、本質を見出していこうとするのです。
このカントリーリスクマネジメントの授業を通じて、
ビジネススクールという枠を超えて、幅広く「情報リテラシー」というものを、
Wetzel教授から学ばせてもらっています。