【出張講義】マリオットのブランドマネジメント


3月29日に、マリオット (Marriott International Inc.)社の
Senior Vice President (ブランドマネジメント担当) 、Brian King氏が
出張講義に来てくださいました。

世界トップブランドのひとつ、マリオットのブランドマネジメントの話が聞けるということで、
僕も聴講に参加しました。

King氏の講義の話を紹介する前に、
ホテル業界のビジネス構造を振り返ってみたいと思います。

ホテル業界にとって、ブランドマネジメントは非常に重要だと言われています。
それはなぜでしょうか。

もちろん、顧客がホテルを選ぶ場所に「ホテル名」を重視するということもあります。
ホテル名がホテルの階級を想起させるということもあります。
顧客のリピート率を確保するために、ブランドに良いイメージを持ってもらうという
こともあります。

しかし、ホテル業界にとってのブランドとは、それ以上の意味を持っています。

それは、「マリオットにとってブランド価値は重要だ」ということではなく、
むしろ、「マリオットが守るべき資産は”ブランド”しかない」ということなのです。

ここで、Marriott International Inc.の財務諸表を見てみましょう。
下記は、2010年のアニューアルレポートです。

少し表が見づらいですが、ここからマリオットの売上構成がわかります。

表の上から順に、

・Base management fee (ホテルの売上の一定割合)
・Franchise fees (ロイヤルティ)
・Incentive management fees (ホテルの利益率の一定割合)
・Owned, leased, corporate housing, and other revenue (宿泊料金)
・Timeshare sales and services (長期滞在宿泊料金)
・Cost reimbursements (サービス運営コスト)

という構成で、Cost reimbursementsが多くの割合を占めています。

そして、販管費の項目を見てみると、

・Owned, leased, corporate housing-direct (宿泊サービス運営コスト)
・Timeshare-direct (長期滞在宿泊サービス運営コスト)
・Timeshare strategy (長期滞在宿泊サービス減損費用)
・Reimbursed cost (サービス運営コスト)
・Restructuring cost (経営改革コスト)
・General, administrative and other (販管費及びその他)

ここで不思議なことに気づきます。

売上の大半を占めていたCost reimbursementsは、
全額まるまるReimbursed costとして差し引かれています。

また、次に売上に占める割合の大きい、
Owned, leased, corporate housing, and other revenueと
Timeshare sales and servicesも、
同様に、Owned, leased, corporate housing-directと
Timeshare-direct としてほぼ同額差し引かれています。

その結果、真の売上として残るものは、
・Base management fee (ホテルの売上の一定割合)
・Franchise fees (ロイヤルティ)
・Incentive management fees (ホテルの利益率の一定割合)
の3つです。

すなわち、マリオットの事業はホテル運営ではなく、
他のホテルオーナーからのコンサルティングフィーおよびブランド料のみを
生業にしているのです。

このような事業運営は、マリオットだけではなく、ホテル業界全体に及びます。
フォーシーズンやヒルトン、インターコンチネンタルも同様に、
「ホテル運営」ではなく、「ブランド提供」を事業しています。

「マリオット」という看板を背負う、他のホテル経営企業から、
収益の一部やロイヤルティを得る事業が、マリオットのビジネスなのです。

ここまでくると、なぜマリオットにとって「ブランド」が重要なのかを理解していだけると思います。
すなわち、「ブランド」そのものが、マリオットの商材なのです。

さて、ここからKing氏の講演内容に話を戻していきます。

マリオットは、ビジョンとミッションを以下のように掲げています。

ビジョン: 世界でNo.1の宿泊サービス企業となる
ミッション: 株主価値を最大化させるためブランド価値と顧客人気を高める

世界でNo.1となるためには、様々な顧客から支持を集めるホテル(ブランド)を
構築していかなければなりません。

そこで、マリオットは、
縦軸にホテルランク(超高級、高級、上中級、中級)、
横軸に宿泊目的(ビジネス目的、ややビジネス目的、やや休暇目的、休暇目的)
という16にセグメントを分けて、それぞれにブランドを配置していく
ブランド・ポートフォリオ(Brand Portfolio)戦略をとっています。

それぞれのセグメントに対して、どのようなブランドを構築していくか。
これがブランド・マネジメント(すなわちマリオット自体のビジネス)の最大の山場となります。

プランニングの順番としては、

・市場価値算出
・セグメンテーション
・ターゲット顧客に対してのグループインタビュー
・モデルルームを使ったコンセプトテスト
・オペレーションテスト

となります。

さらに、このプランニングの段階で難しい点は、
ホテル業界の店舗拡大の特有のスタイルにあります。

新興国や新たな観光地などの例外を除き、
ホテルの拡大は、既存のホテルのリフォームの形で行われます。
新たに「マリオット」ブランド(正確にはそれぞれのセグメントのマリオットブランド)を
掲げることになるホテルは、そのブランドに沿うようリフォームが施されます。
その際には、既存のホテルの建築構造という制約条件があるため、
すべてをゼロから作り直すことはできません。
いかに、投資を少なく、ホテルを蘇らせることができるのか、
それが「ブランド屋」としてのマリオットの腕にかかっています。

この中で、King氏が強調していたのは、常に
「なぜ、なぜ、なぜ」を繰り返していくことだと言います。

「なぜ、フロントのカウンターはこの高さなのか?」
「なぜ、ロビーは絨毯なのか?」

その意志決定のひとつひとつは、投資対効果の観点で数値化され、
価値が認められる設備投資のみ実行されます。
一つ一つに対して、顧客視点で「なぜ、なぜ」を繰り返していくことで、
顧客に支持されるホテルができあがっていきます。
基本的にこのリフォームを通じた投資回収期間は3年が目安となっているようです。

最後にKing氏は、ブランド・マネジメントの肝について以下してくださいました。

・Always be relevant (常に一貫性をもて)
・Be a slave to the target’s merchant (ターゲット顧客につくせ)
・Never lose site of your core business model (主要なビジネス価値を見失うな)
・Stand out from the clutter (他の中にうずもれるな)
・Make innovation a state of mind (常にイノベーションを心掛けよ)
・Be the category killer (カテゴリーキラーになれ)
・Know the deference between novelty and staying power (斬新さとパワーを混同するな)

ホテル業界は、ブランドという、ある意味実体のないものの戦いです。
そのホテル業界からは、ブランドが持つ意味、ブランドを普及させていくための心構えなど
他の業界でも通用するブランド・マネジメントの手法を、多く学ぶことができます。

マリオットの経営陣の半数は、もと「ベルマン」だそうです。
以下に顧客接点を大事にしているか、このエピソードからも気づかされます。


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