【出張講義】マクドナルドはなぜ凋落し、なぜ回復できたのか


1か月ほど前に、McDonald’s(マクドナルド米国本社)の元CFO、
Matthew Paull氏が出張講義に来てくださりました。

内容がとても濃厚だったので、
まとまった時間をつくって、ちゃんとレポートをしたいなと思っていたら、
1か月経ってしまいました。。。


↑一番左の方です。

Paull氏は、会計コンサルティングのErnst&Young(アーンスト・アンド・ヤング)の
パートナーとして、マクドナルドの国際税務のアドバイスをしていた縁で、
当時のCEOに誘われて、1993年にマクドナルドに執行役員(Vice President)
として入社します。
2000年には財務・税務担当の常務執行役員(Senior Vice President)となり、
2001年にはCFO兼専務執行役員(Corporate Executive Vice President)に、
そして2004年にはCFO兼副社長(Senior Executive Vice President)に昇格。
アメリカの大手上場企業の経営人としての任期は平均3年ともいわれる中で、
Paull氏は、2008年退任されるまで、15年マクドナルドに貢献し続けました。

Paull氏のCFOとしての在任期間は、マクドナルドにとって大きな意味を持っています。

マクドナルドは、1965年に株式上場して以来、
1990年代まで継続的に株価を上昇させていきます。
しかし、1998年Jack M. Greenberg氏がCEOに就任した後、株価は大きく反落。
1999年1月にマークした$45.31をピークに、
わずか4年後の2003年1月には、1/3以下の$14.46にまで凋落してしまいます。
Greenberg氏は2002年12月にCEOを解任され、
Jim Cantalupo氏が2003年1月よりCEOとして立て直しの任に着きます。
この新たなマクドナルドを築いたCantalupo氏は、2004年4月に心臓発作で急死。
後を継いだ新CEOのCharlie Bell氏も、就任2か月後に大腸癌を患い、同年12月には退任。
しかし、この苦難の中でも、Cantalupo氏の改革の意思は受け継がれ、
2005年1月にCEOに着任したJim Skinner氏は、今日もCEOとして活躍し、
2011年4月現在、株価は約$80にまで達しています。

マクドナルドの苦難から大躍進までの一連の流れの中で、
CFOとして数々のCEOと苦楽をともにしてきたのが、
今回の出張講義のPaull氏なのです。
Paull氏は2008年にマクドナルドを離れ、
現在はアメリカの家電量販店Best Buyの取締役として活躍されています。
今回の講義のテーマは、「マクドナルドはなぜ凋落し、なぜ回復できたのか」。
渦中の人による真実が語られました。

マクドナルドの株価が低迷していった1999年から2002年。
しかし、その間も売上は成長を続けていました。

ただし、上記のとおり、売上増加率は減少をしていきました。
特に既存店舗の売上は減少に転じ、新規店舗を出店しないと、
全社の売上を維持できない状況となっていました。

しかしながら、新規出店には大きなキャッシュ・アウトを伴います。
出店後しばらくは、新規店舗単体のPLは赤字になります。
そのため、売上は増えれども、利益は減少するという事態に陥っていました。

この窮地を打開するため、
世界を代表する大手戦略コンサルタント会社が出した提案は以下のものでした。

「新規ビジネスを育てることで、会社全体の売上と利益を牽引する」

新規、既存店舗ともに売上が減少していた「マクドナルド」という事業には固執せず、
株主価値を高めていくため、新たなビジネスを積極展開し、
そして、第2、第3の「マクドナルド」を創っていこうというアイデアでした。

そこで、主要戦略に掲げられたのが、M&Aです。


※出所:Alacra, Inc

こちらの表をご覧のとおり、1999年から2002年まで、
6つのM&Aを実施しており、これは後にも先にもない著しい数です。
ハンバーガー以外のファーストフード店を主に買収をし、
その企業を「第2、第3のマクドナルド」とすることを図りました。

しかし、結果的に、この戦略は失敗しました。
新規ビジネスについても、新規店舗と同様に初期投資に莫大なコストがかかり、
利益を向上させることはできなかったためです。

これらの戦略の失敗と、マクドナルドの先行きの暗さからくる株価低迷の責任をとり、
1998年から2002年までCEOを務めたGreenberg氏はを解任されます。

そして新たにCEOに着任したJim Cantalupo氏は、戦略を180度転換させます。
彼の戦略スローガンは、”Not Bigger, Better”。
つまり、「売上は大きくしなくていい。高利益体質にするのだ。」というものです。

そのために注力したのは、既存店舗の立て直し。
より具体的には、「マクドナルド」というビジネスモデルそのものを改革し、
マイナス成長に転じていた既存店舗の売上こそ増加させるべきだというものでした。

そこで、1998年から力を入れてきたM&Aを全面ストップし、
むしろ買収した企業の売却を推し進めました。
さらに、コストが高くつく「マクドナルド」の新規出店を抑制しました。

その代わりに、
“New Strategy, New People, New Products, New Price, New Promotion”
という改革方針を掲げ、完成系と思われていたマクドナルドのビジネスのすべてを
再点検しにかかったのです。

まず、これまでの中央集中管理方針から、フランチャイジーの権限を高め、
地域地域の状況に即したオペレーション方針へと転換しました。
これは、現場の「人の力」をもっと活用していこうというものです。
販促予算管理も、中央管理からフランチャイジー裁量へと舵を切りました。

また、「ファーストフード=健康を害する」というイメージを払しょくするため、
ヘルシー食材を使った新メニューを開発。サラダメニューにも力を入れました。
そして、高価格帯メニューの販売も開始します。

そして、今もお馴染み”I’m loving it”というキャッチフレーズを世界各国で同時に展開。
「マクドナルド」をより親しみやすい存在へと変えていきました。

その結果、既存店舗の売上は大きく増加し、
会社全体の売上増加を牽引し、
さらに利益率の高い既存店舗の売上増は、利益増加をもたらしました。

最終的に、この戦略転換は今日の高い株価へとつながっています。

Paull氏は、最後に、マクドナルドの将来について、力強くこう語りました。

「マクドナルドの将来は非常に明るい。食のカルチャーとして、マクドナルドは
世界に不動の地位を築いた。この業界には技術革新による脅威は起こりにくい。
世界中に受け入れられたマクドナルドの地位は盤石だ。」

「極めて保守的な財務体質も好材料だ。マクドナルドは新規出店において、
“60/40″(負債60%、自己資本40%)をルールとしている。
マクドナルドの企業としては、”1 to 4″(負債20%、自己資本80%)を掲げている。
それでもWACC=9.4%ほどで資本コストも少ない。」

今回の出張講義を通じて「顧客に向き合うことの重要性」について、
あらためて考えさせられました。
一般的にCFOは株主価値の代弁者であると目されていますが、
Paull氏は「顧客に向き合うことが大事だ」と、
あたかもマーケティングオフィサーであるような発言を繰り返していました。
株主に利益を還元するためには、やはり顧客を向かないとだめだということです。

企業にとって既存ビジネスの成長は重要です。
その既存ビジネスを深く見つめなおすために、
「顧客は今、何を求めているのか?」
「顧客は今、自社についてどう思っているのか?」
を何度も何度も振り返ることで、企業は強くなっていくのだと思います。

P.S.

マクドナルドの未来は本当に明るそうです。
マクドナルドをはじめとするアメリカ企業は、
このような「文化輸出」の力に長けていると思います。
マクドナルドのハンバーガーの価値優位性を機能的説明することは非常に困難です。
しかし、マクドナルド=カジュアル、ポップ、コンビニエンスというような、
「なんとなく、かっこいい」という雰囲気を世界中で確立してしまっています。
この「雰囲気」というものは、理屈を超えた力があります。

一方で日本企業は、「機能面」の価値訴求を強調する傾向があるように思います。

トヨタのプリウスは燃費がいい、CO2排出量が少ない。
ユニクロのヒートテックは暖かい。
寿司は低カロリーでヘルシー。

日本企業は真面目に数字でまで表現しながら、こうした機能的価値を追求しがちです。

アメリカ企業のブランドランキングが常に上位に来るのは、
個々の経営の力もさることながら、「アメリカってクールだよね」という、
国そのものの「ソフトパワー」が持つ力によるものも大きいのではないかと、
最近は考えています。


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