昨日、タンザニアの現職ジャカヤ・キクウェテ大統領の夫人、
サルマ・キクウェテ氏が、サンダーバードに来校し、スピーチが行われました。
大統領が絶大な力を持つアフリカ諸国の大統領夫人によるスピーチ。
雰囲気を味わってみようと、スピーチに参加してきました。
サンダーバードは修士課程の学生しかいないため、
キャンパスの人数は一般の大学に比べると非常に少なく、
スピーチでも会場には通常15名ほど、多くても40名ほどしか集まりません。
今回のサルマ夫人のスピーチも、学生は15名ほどでした。
開始時刻の11:00から5分ほど遅れ、夫人がスピーチ会場に登場されました。
民族衣装に身を包み、凛とした姿です。
夫人に続き、タンザニア関係の方々が30名ほど入室。
聴講する学生数より、関係者のほうが多いという少し異様な雰囲気です。
駐米タンザニア大使も同行していました。
サンダーバードのカブレラ学長も、今回のスピーチには終始同席です。
会は、タンザニアからの留学生が夫人を紹介することで始まりました。
20代半ばの華奢な女の子。少し緊張した様子です。
ステージをサルマ夫人に譲ったところで、ハプニングが起こります。
マイクがうまく入りません。同行の方々がソワソワし始めます。
フランクな雰囲気のアメリカ文化の中で、
このようなソワソワ感を目にすることはまずありません。
先日、ライス元国務長官が来校した際も、
マイクが途中で途切れてしまうハプニングがありましたが、
このソワソワ感にはいたりませんでした。
逆に日本ではこのようなソワソワ感は日常茶飯事です。
まさに社長のスピーチでマイクが入らず、総務部や主催者が焦る。
それと非常に似た感覚を覚えました。
このハプニングを前に、カブレラ学長もじっとしていられず、
手招きで冒頭の紹介スピーチを行った留学生を呼びます。
が、このような雰囲気になれていない彼女は、カブレラ校長の意図が読み取れません。
カブレラ校長が、何度も何度も手招きをします。
これも、日本でのトラブル時に役員が従業員を手招きで呼ぶ様子に似ています。
ようやくマイクが正常に戻り、サルマ夫人はスワヒリ語でスピーチを始めます。
そこで、続いてハプニングです。今度は同行通訳のマイクが入りません。
しかし、通訳はあくまで夫人の脇役。
マイクが入らないことを気に掛けず、必死に通訳をこなしていきます。
しかし、この続いてのハプニングを前に、再び会場がソワソワしはじめます。
今度は夫人の同行の男性が、同じ留学生の彼女に声をかけます。
「マイクを交換できないのか?」少し焦った表情です。
彼女は、あくまで冒頭スピーチの担当。会場の設備には精通していません。
彼女は、なにもできず、慌てふためくばかりです。
そんな彼女を、サンダーバードのスタッフが救います。
機転を利かせ、質問者用のマイクを通訳のマイクに手渡し交換。
留学生の彼女に話しかけた男性も、「もう大丈夫だよ」と彼女を解放していました。
この一連のできごとから、アフリカ文化の一端が垣間見られました。
大統領夫人は、この会場の中で、揺るぎない頂点なのです。
そして、その夫人の威信を守るべく、周囲が全力でサポートします。
これは、何もアフリカに特別なものではなく、日本の縦社会と同じだとも言えます。
アフリカでは、誰が上位者なのかを把握し、その上位者の威信を傷つけないように
することが大事なのだと感じました。
夫人のスピーチは、彼女が取り組んできた女性の地位向上の活動や、
彼女が設立した女性のためのNGOのビジョンや活動内容、
貧困層への健康向上を目的とした広範囲な医療施設の整備などが紹介されました。
ときに夫人は、5分以上もスワヒリ語で話し続けます。
通訳の彼は、少し困惑した表情をしながらも、夫人のスピーチを遮ることはありません。
夫人はそんな彼を前に、”Did you get it?” と一度笑いながら英語で話しかけました。
会場でも少し笑いが起きましたが、通訳の男性は完璧に通訳をやり遂げます。
あくまでも夫人がスピーチの主役。
通訳はその主役のペースに合わせるのが役目なのです。
会の冒頭で、サンダーバードの担当者から質疑について注意伝達がされました。
「質疑においては必ず最初に夫人に対して質問するように」
同行の中には、駐米大使や大学教授などがいますが、夫人を尊重しなければ
ならないという配慮からです。
そして、実際の質疑応答がはじまりました。
サンダーバードの学生は、かなりきわどい質問を切り出しました。
「アフリカ諸国では、貧困層の声が政府に届かず、貧困層への健康支援が
行き届いていないと聞きます。政府にとって優先順位が低いからだと言われて
います。タンザニアではどうなのでしょうか。」
カブレラ学長も少し気が気でない様子でしたが、
夫人は、「いい質問ね。」、とあまり意に介した様子はありません。
夫人は、英語のリスニングはできるようで、質問は英語で通訳なしで聴き、
それをスワヒリ語で回答していくというスタイルです。
ただ、ときどき、聴き取りにくい英語が出てくると、
“What?” “What?” と容赦なく質問者に詰めかけます。
3つ質問が終わり、4つ目の質問で、
学生が、国家インフラ整備について質問をしました。
すると急に夫人は、駐米大使を呼び、
「彼女が大使よ。」と英語で言って、マイクを譲ります。
公式見解に聞こえるような意見を大統領夫人が話すことを避けるためです。
駐米大使は慣れた様子で、替わりに質問に答えていきます。
そして、その時点で、夫人は会場の席に戻っていきました。
残りの質疑応答は駐米大使に預けたのです。
席についた夫人に対し、カブレラ学長がすかさず労いの声をかけます。
そして、空いたグラスに水を注ぎます。
このような光景も、アメリカの日常にはありません。
カブレラ学長の異文化対応能力の高さが伺えます。
そして、最後にアメリカ人の学生から、日本では考えられない質問がでました。
「自分は今、水ビジネスの会社に勤めている。現在、アフリカへの投資案件を
検討中で、候補国は、タンザニア、モザンビーク、ケニアだ。タンザニアに投資
をしたいとも考えているのだが、何が魅力なのか、後押し材料をくれないか?
そして、タンザニアに行った際には、ぜひ夫人と打ち合わせをしたい。」
駐米大使に、自分のリサーチの肩代わりをさせてしまう、大胆な質問です。
こうしたところに、アメリカ人のフランクさというか、空気の読まなさがあります。
駐米大使は、「ケニアやモザンビークについては話したくないわ。タンザニア
についてだけ話をするわよ。タンザニアは非常にいい国よ。なぜなら・・・・」
と、誠意をもって、彼の質問に対応をしていました。
そして、予定時刻の12:00ちょうどに閉会。場は解散となりました。
サンダーバードの中にも、アフリカ出身の学生は数多くいます。
しかし、このようなVIPを前に、緊迫したオフィシャルな雰囲気は、
なかなか体験することはできません。
今回は非常に勉強になりました。