今回のブログのタイトル。「本社と支社の健全な関係」。
このテーマは、グローバル企業、国内企業など業界や規模にかかわらず、
本社とエリア拠点(海外子会社、海外支社、支店など)の関係構築は
どの企業もかかえているテーマだと思います。
「本社は何もわかっていない」
「支社の勝手な行動で業績が伸びない」
「現地法人の高コスト体質を辞めさせたい」
「ヘッドクォーターはローカルの事情をもっと理解すべきだ」
自分も以前、仕事上で、このテーマについて悩んだ時期がありました。
もちろん、この問題については、
「本社が正しい」「支社が正しい」というシンプルな回答ではありません。
特に、グローバル企業にとって「本社-支社・支店関係」は死活問題で、
前回のブログでも紹介したAAA戦略(Adaptation, Aggregation, Arbitrage)という
フレームワークからも、
Adaptationのために支社からインプットをすると同時に、
Aggregationのために本社により全社のオペレーションを最適化することが
求められています。
このように複雑化する本社・支社関係をどうマネジメントするべきか。
サンダーバードの「グローバル戦略」の授業でのポイントは、
「すべての支社を一律にマネジメントすることはやめよ」というものでした。
Chistopher A. Bartlett and Samantra Ghoshal, “Tap your subsidiaries for global reach,”
Harvard Business Review, Nov. 1987.
まず、支社の戦略的位置づけを、
「ローカル環境の戦略的重要性」と「支社の競争力」の2つの軸で
4つに分類します。
1. 戦略リーダー
このカテゴリーに位置づけられるのは、将来の事業全体の方向性を
左右する重要なエリアで、現在競争力を持つことができている支社です。
「重要なエリア」とは、
例えば、他のエリアに先んじて、法整備が進んでいたり、
将来普及するとみられる技術の導入が進んでいたり、
新興国市場など新たなビジネスモデルを構築することで市場を拡大する
試金石となるエリアなどです。
このようなエリアでは、支社が、いち早く現地の情報やニーズ、変動をすることで、
事業全体の戦略策定や、R&Dのテーマ設定において重要な意味をもちます。
これらのエリアですでに競争力を持っている支社が果たすべき役割は、
既存の商品やモデルに縛られず、新たな商品やモデルを本社と協力しながら
開発していくこととなります。
また、この「戦略リーダー」に対する本社の役割は、
事業全体のゴールや優先順位と、「戦略リーダー」支社のミッションを、
うまく整合性をつけていくことです。
そして、「戦略リーダー」が新たなモデルを開発するのに十分な
人的資源や予算、技術資源を提供していくことも重要な役割となります。
2. 貢献者
すでに競争力はあるけれども、戦略上重要ではない支社は、
そのエリアでの競争力を維持するのに必要な程度以上の経営資源を保有
していることが多く、
これをいかにして経営資源を戦略重要拠点に再配置していくかが、
重要なテーマとなります。
もっとも難しいのが、その支社の士気を下げないようにすることです。
通常、経営資源を奪われることは、その支社にとっては歓迎されず、
大きな抵抗を生み、せっかく構築した競争力そのものを削ぐことにも
つながりかねません。
ひとつの例としては、支社の保有資源となっているものを、
一度、本社保有としたうえで、支社に対しての支援を継続するという
工夫などが考えられます。
3. 導入者
戦略的に重要ではなく、エリアでのビジネスをなんとか維持できるぐらい
の競争力だけを持っている支社が「導入者」です。
この支社に求められるのは、経営資源を節約しつつビジネスを維持する
ための効率性です。
この効率性には、支社内で努力するものもありますが、
事業全体として規模の経済を実現するための、
生産、流通、購買、設計などの統合化も含まれます。
そのため、この「導入者」に対する本社の役割は、
事業全体の最適化の視点から、管理を強化していくことが必要となります。
4. ブラックホール
戦略的に重要な拠点で、存在感の小さい支社が「ブラックホール」です。
ありがちなパターンとしては、物見遊山的に、先進国や新興国市場に展開し、
マーケットや技術動向の観察を続ける役割をおった支社などです。
しかし、このような「見学」支社が、事業全体の戦略に対して貢献することは少なく、
ただただコストセンターとなってしまうことが多いようです。
なぜなら、実際にそのエリアで事業として存在感を出せていない限り、
業界動向や技術動向を優位に知る環境に入り込めず、
情報をキャッチした頃には、他の競合企業も入手していることがほとんどだからです。
このブラックホールに対して求められるのは、
このブラックホール状態から抜け出すことです。
方法としては、経営資源を投下する、もしくはローカル企業と提携・合弁企業を設立し、
「戦略リーダー」となるよう市場に本格参入することが考えられます。
このように、本社と支社(海外子会社、海外支社、海外支店など)との関係といっても、
事業全体のマネジメントのために、それぞれの支社には異なる期待と役割があります。
当然、この一律でない支社マネジメントの手法は、
戦略上も組織運営上も複雑さを増します。
しかしながら、この複雑さから目をそむけることなく、
マネジメントを巧みに成功させることができた企業ほど、市場を手にしていくのだと思います。
また、この本社と海外子会社との関係のフレームワークは、
国内の本社-支社関係にとっても有効に作用しそうだと感じています。