【マーケティング】サムスンの戦略


毎年、Businessweek紙が、世界のトップブランド100というレポートを発表しています。

トップ10は、
1位 コカ・コーラ (アメリカ)
2位 IBM (アメリカ)
3位 マイクロソフト (アメリカ)
4位 GE (アメリカ)
5位 ノキア (フィンランド)
6位 マクドナルド (アメリカ)
7位 グーグル (アメリカ)
8位 トヨタ (日本)
9位 インテル (アメリカ)
10位 ディズニー (アメリカ)

と、アメリカ勢が多数を占める中で、日本のトヨタがランクインしています。

このトップブランドランキングの評価基準は、
「母国以外での売上高」「ブランド名による利益貢献度」「将来利益の現在価値」
で評価されているとのことです。

日本勢としては、8位のトヨタのほか、

18位 ホンダ
29位 ソニー
33位 キャノン
39位 任天堂
75位 パナソニック
96位 レクサス

という顔ぶれです。

このランキングは、社名ではなく、ブランド名なので、
96位にトヨタ自動車の高級ブランド「レクサス」がランクインしています。

さて、最近、躍進を遂げている韓国勢は、

19位 サムスン (三星)
69位 ヒュンダイ (現代)

日本ではとてもトップブランドとは呼べない、サムスン、ヒュンダイですが、
世界の市場では、ブランド価値をどんどん高めています。

その中でも、躍進が著しいのはサムスン。
2000年のランキングでは42位だったサムスンは、
この10年間で19位にまで躍進を遂げました。
対象的なのは、ソニー。
2000年ランキングの20位から、現在29位まで後退し、
サムスンに追い越されてしまいました。

昨今、サムスンの躍進理由は、リーマン・ショック後の円高・ウォン安であるという
主張をする方もいますが、サムスンはその前から、世界で成功し続けています。

サムスンの戦略。
それは、1993年に当時の会長であった李健煕氏が始めた「新経営方針」に
端を発しています。
ちなみに、李健煕会長の読み方は、
現地のハングルでは、 이건희 (I Geon-hui、イ・ゴンヒに近い発音)。
しかし、英語圏では、「李健煕」の北京語読みを、苗字と名前をひっくり返して、
Kun Hee Lee と呼ばれています。

この「新経営方針」(New Management Initiative)を始める前は、
サムスンの事業内容は、低価格・低品質商品のOEM生産が中心でした。
ブランド力が低いため、自社ブランドでの販売をすることは少なく、
他社のブランドに頼って、商品を販売していました。

この状況に対し、李健煕会長は「妻と子以外はすべて変えよ」というスローガンを掲げ、
2008年に会長職を退くまで、大ナタを振るっていきます。
改革の骨子は、技術開発、高級製品、ブランド価値への長期投資へのコミットメント。
これは、これまでのサムスンの主力戦略を根底から覆す方針でした。

1. サプライチェーンの垂直統合
「選択と集中」「非中核事業のアウトソーシング」という最近の流行に反し、
李健煕会長は、「ものづくりこそが、我々の本丸」ととらえ、
部品から最終製品までの一括生産を重視します。
その一環として、半導体や液晶パネルなどの部品に莫大な投資を敢行。
一歩間違えば、膨大な在庫リスクを抱える、大博打でした。
製造ラインを自前で持った結果、可能となったのは、
製品の顧客ニーズに応じたカスタマイズ化。
2008年当時で、サムスン製のメモリーチップの半数以上はデルやマイクロソフト、
ノキアなどへの特注製品で、結果、価格下落を抑え、
市場平均より17%高い価格の販売を実現していました。
さらに、製造コストの削減にも力を注ぎ、韓国内での生産に固執せず、
人件費の安い新興国での製造を積極的に開始していきました。

ハードウェアへの特化
ソニーやアップルといった競合企業が、
ハードウェアとソフトウェアの融合という方針を掲げたのに対し、
サムスンは、ハードウェアにこだわりつづけました。
サムスンの製品は、iTunesのような特定のソフトウェアプラットフォームをもつのではなく、
どのソフトウェアにも対応できるハードウェアを目指すという
「オープン・アーキテクチャ」を採用し、それを価値と位置づけました。
競合がハードウェア重視からソフトウェア重視に舵を切る中で、
サムスンは、その間隙を一気に攻めていったのです。

製品ジャンルの多角化
「ものづくり」こそが本丸だと位置付けた李健煕会長は、
製品を選択するのではなく、製品の多角化を進め、
すべてのジャンルでのイノベーションを起こすための投資を拡大させます。
そして、すべてのジャンルにおいて高価格帯の市場を狙いいました。
技術革新→高価格→高利益→技術革新への再投資
というサイクルを回し続けたのです。

デジタル製品への特化
製品ジャンルを拡大したサムスンですが、
大きな括りとしては、「デジタル製品」というジャンルには特化しました。
デジタル技術は、新しい技術であったため、このジャンルであれば、
既存の優位性をもつ競合大企業に対して、戦うことができると位置付けたためです。
そこでデジタル技術のエンジニアを大量に採用し、デジタル技術のR&Dにも
多額の投資を行います。
そして、かつてソニーが掲げたような「デジタル統合」「デジタルネットワーキング」を
意識し、異なる製品を、1つのネットワークに統合していく方針を採ります。
サンプリングのため、サムスン技術でネットワーク化されたマンションをつくり、
そのマンションをマーケティングとしても活用しました。

製品開発の短サイクル化
一方で、デジタル製品はライフサイクルが短く、すぐにコモディティ化してしまいます。
そこで、サムスンは、日本の「刺身」にヒントを得ます。
「鮮度の良い刺身は高く売れるが、鮮度が下がると価格は一気に下がっていく」
この「刺身戦略」と名付けた指針の下で、
製品開発を、日本企業の2倍のスピードにまで短サイクル化しています。

ここまでの内容の通り、サムスンは技術開発と生産ラインに大きく力を入れました。
OEM中心から、高機能ブランドへと変化を遂げるためには、
「ものづくり」力の向上が必要不可欠だったのです。
しかし、李健煕会長の「新経営方針」の真骨頂は、別のところにありました。
マーケティング改革です。

1997年に副会長に昇進したYun Jong Yong氏は、マーケティング担当の副社長に、
当時アメリカで活躍していた韓国人のEric Kim氏を招聘します。

世界中の市場のマーケティングを一手に担当することになったEric氏は、
ブランド価値の向上こそが、今後の経営戦略の中核になると、経営陣を説得し、
マーケティングを改革し、サムスンの事業における中核的存在にも引き上げます。

1. [投資のシフト] 短期的な販促・割引から長期的な認知拡大への投資のシフト
2. [分配方法改革] 各事業への予算分配を、過去の販売実績に応じた分配から、
  未来の成長可能性に応じた分配へとシフト
3. [製品開発への関与] 技術志向の商品開発からマーケティング志向の商品開発へシフト
4. [認知方法の変化] 世界でのブランド確立のため、「韓国」企業というイメージを縮小

こうしたEricの改革は、社内の各部署から大きな反発を招きます。
営業部門からは、「いいものを作れば売れる。マーケティング予算は無駄だ。」
製造部門からは、「なぜ製造コストを圧縮しているのに、マーケティング予算は膨張しているのだ。」
と非難されます。
しかし、Eric氏は、ブランド価値向上を使命として掲げる李健煕会長のバックアップを受け、
徐々に改革を進めていき、
結果として、冒頭にあったようにブランド価値を世界19位にまで押し上げました。

サムスンの戦略をまとめると、以下のように表現できます。
‐ 資本をR&Dとマーケティングに集中投下。製造ラインは海外に出してコスト削減。
‐ デジタル製品を川上から川下まで製造することに注力。ソフトウェアは注力しない。
‐ マーケティング主導の製品開発で、ニーズのある商品のみを発売。
‐ 海外でのブランド価値向上に努め、販売力を強化。

こうしたサムスンの努力は実を結び、売上と利益は急速に増加していきましが、
同時に課題もありました。
ブランド戦略のために選択した「最先端」というイメージは、同時に「無機質」という
イメージを顧客に与えており、そこがサムスンの新たな課題として認識されました。

そして、サムスンは、ここ数年は、「製品デザインの強化」「製品の“温かみ”の向上」
という新たなステージに入っています。

日本企業は「技術」に強く、韓国企業は「マーケティング」に強いと評されることがあります。
しかし、この15年余りで、韓国企業はデジタル領域では高い技術力を身につけ、
日本企業にほぼ追いついています。
さらに、当時の懸案事項だったマーケティング力では、常に手本にしたきたソニーを抜き、
世界ランキング19位となっています。

世界でブランド価値を上げ続けるサムスンと、苦しみ続ける日本。
サムスンと愚直に戦うのであれば、サムスンが先行した「海外移転による生産コスト削減」
「マーケティング力」強化が必要であり、
新たな市場を築くのであれば、大きなリスクを覚悟したうえで、
Apple製品の次に市場をとるための製品開発が必要になってくるのだと思います。

※今回の報告は、サンダーバードのマーケティングの授業で使用した
Quelch, John and Anna Harrington. “Samsung Electronics Company: Global Marketing
Operations.” Harvard Business School 9-504-051; Jan. 16, 2008
を参考にしました。


カテゴリー: MBA講義内容 タグ: , , , , , , , , , , , , パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>