【マーケティング】Value Based Pricing/Marketing


今週のマーケティングのクラスのテーマは、
Value Based Pricing/Marketingでした。

焦点は、B2Bビジネスをに当てられていました。

「商品やサービスの価格設定はどのように行うべきか?」
「価格が下落してきたとき、問題は何なのか?」
今回のテーマは、このような問いに答えてくれるものです。

キーワードは、「Value (価値)」です。

まずValueの定義から始まります。

Value(価値)=Benefits(利得)-Cost(コスト)

で表されます。商品から得られる利得からかかるコストを引きます。
非常に直観的な考え方だと思います。
これがゼロ以上であれば、その商品は顧客に対して価値がある=販売できる
ものといえます。

ここで言うコストは、大きく2つに分けられます。
1. 価格=有形コスト
2. その他のコスト(手間、ストレス、リスク等)=無形コスト
つまり、コストには価格だけでなく、その他、顧客に負荷をかけるものをすべて含む
ということが、ミソです。

次に、価値公式というものを求めていくため、
上記の公式を、以下のように変形させます。

Value = Benefits – Cost
   = Benefits – (有形コスト+無形コスト)
   = Benefits – 無形コスト – 有形コスト(価格)

ここで、(Benefits – 無形コスト)を V
有形コストを P
と定義します。

Value = Benefits – 無形コスト – 有形コスト(価格)
   = V – P

VとPはともに、金額で表現されます。
Vを金額で表現することは、一筋縄ではいきません。
そのためには、顧客が何をどのように価値と考えるかを、
定量的に把握していく必要が出てきます。
詳細は、後段で説明します。

ここで得られた (V – P)は、
Customer’s Incentive to Buy(顧客購入インセンティブ)と呼ばれています。

この顧客購入インセンティブの概念を使って、
まず、価格設定の手法について説明していきます。

商品A(自社商品)が商品B(競合商品)より、勝るためには、

V(A) – P(A) > V(B) – P(B)
の関係が成立していなければなりません。
言っている内容は非常にシンプルです。
商品Aの購入インセンティブよりも、商品Bの購入インセンティブのほうが
高いからです。

例えば、顧客がAとBのVに違いを見出さないとき、
V(A) – P(A) > V(B) – P(B)
   - P(A) > – P(B)
   P(A) < P(B) となり、商品Aが商品Bを上回るためには、 Aのほうが価格が安くないといけません。

この考えをもとにすると、
Value-in-Use(VIU) という概念が得られます。
このVIUとは、「どれだけ他社製品より価格を高く設定できるか」
についての具体的な付加価値金額のことです。

VIUは式にすると、以下のように表現できます。

VIU(AB) = {V(A)-P(A)} – {V(B) – P(B)}
    = {V(A)-V(B)} – {P(A) – P(B)}

そして、最終的に、この公式を得ます。

VIU(AB)+P(A) = P(B)+{V(A)-V(B)}
       = VIU Price(AB)

VIU Price(AB) は、自社商品に設定可能な最大価格を表しています。
まず、V(A), V(B)を計算し、その差を明らかにします。
次に、競合商品Bの価格P(B)を調べ、
P(B)に、V(A)とV(B)の差を加えたものが、自社商品の最大価格となります。

ひょっとすると、ここまでの内容は、
あまりにも「普通」のことを言っていると思われるかもしれませんので、
2つの補足をしたいと思います。

1つ目は、この概念が何を否定したいのかというお話です。
テーマであるValue Based Pricingが否定したいのは、
Cost Based Pricing、つまりコストの積み上げで考えていく価格設定の方法です。
一般的に価格設定をする際に、Cost Based Pricingをもとにしてしまうことが
よくあります。
この手法は、売れた場合には想定通りの利益を確保することができますが、
「本当に売れるのか?」という課題を残してしまうことになります。
今回のValue Based Pricingは、重要な価格設定は、その方法ではなく、
「あくまでも価値を基準にして価格を設定しなければいけませんよ」
「そして、設定できる価格には上限がありますよ」
ということを言っています。

2つ目は、Value-in-Useの考え方の特徴です。
このValue-in-Useという言葉を開発したのは、有名な経済学者の
アダム・スミスです。「神の見えざる手」という言葉を生んだ、自由主義経済学者です。
彼は、経済の構造は、2つの価値を基準に考えるべきだと言ったそうです。
それは、Value-in-UseとValue-in-Kindというものです。
Value-in-Useは、上記で説明したように、
VとPの差、機能的な効用と言えるかもしれません。
Value-in-Kindは、その効用を「ついつい欲しくなってしまう」ような、
ステータス、ブランド価値など、感覚的な効用という内容です。
今回のテーマでは、Value-in-Useしか、取り扱っていません。
なぜなら、B2Bマーケティングでは、顧客は感覚的な効用ではなく、
機能的な効用を意識し、意思決定を行うことが多いからです。
それにしても、マーケティングという言葉が生まれていなかった18世紀に、
アダム・スミスがすでにこの考え方をもとに、経済学の基礎を築いたのには
感服します。

以上をまとめると、B2Bマーケティングを以下のように整理できます。

客観的価値(提供者視点)とは、その商品が持っている価値です。
価値の金額を他社商品の価値や価格と比較して求めるのが、
Value Based Pricingですので、VIU Price(AB)とも表現できます。

しかし、VIU Price(AB)は、顧客に100%伝わっているわけではなく、
顧客が感じている価値(認知価値)は、通常それより低くなります。

顧客の認知価値と価格の差が、「この商品がこのお値段!」という感覚となり、
顧客がその商品を購入するインセンティブとなります。
一方、原価と価格の差が、企業にとっての粗利、
企業がその商品を販売するインセンティブとなるわけです。

そして、B2Bマーケティングとして、企業が実施していくべきことは、
1. PR・販促・価値訴求:認知価値を客観的価値に近づけていく
2. 価格設定:VIUを意識しながら、顧客と企業のインセンティブのバランスを見極める
ということと位置付けることができます。
さらに、この枠組みそのものを創りだす新たな「商品開発」も含めることができます。

Value Based Pricingの考え方に基づく、
受注までの5つのステップ「5C」を紹介します。
※B2Bビジネスを念頭に置いています。

1. Comprehend
顧客のビジネスモデルを理解し、自社商品がどの顧客の何に対して寄与できる
のかを把握する。特に、顧客セグメントごとに、「客観的価値」が変わるため、
それぞれの顧客セグメントごとの潜在価値を計算することが大切。

2. Create
顧客の「客観的価値」に沿う商品やサービスを開発する。

3. Communicate
その商品やサービスが狙った価値を、顧客に紹介、説明、教育する。
価値の紹介のためには、価値を数値化し、価格と同じ単位(金額)で
説明することがポイント。

4. Convince
顧客にその価値を認識して頂き、価格が割に合うものだと確信して頂く。

5. Capture
交渉点を「価格交渉」から「価値交渉(いかにその価値を最大化できるか)」
にシフトさせる。

このステップは、B2Bの受注だけでなく、企業内での投資意思決定のシーンでも
通用する内容だと思います。

実際のケーススタディーとして、
Kunst社が小型真空ポンプの新たな販売先を見つけるプロセスが
取り上げられました。

Narus, Ajames A. and et. al. “Commercializing the Kunst 1600 Dry
Piston Vacuum Pump.” Babcock Graduate School of mangament, Wake
Forest University, 2003

Kunst社は、売上増のため新型小型ポンプの新たな市場を探していました。
新型ポンプの技術的な特徴は、「オイル交換がいらない」「高性能・時間短縮」
「軽い」というものです。
市場の可能性は3つ。
「家庭用バッテリー修理」「家庭用冷蔵庫修理」「小規模店舗冷蔵庫修理」
いずれも修理工向けの販売ですが、彼らのビジネススタイルには違いがあり、
それぞれにとって、新型ポンプの価値が変わってきます。

Kunst社は市場調査として、各修理工に張り付いて価値を検討しました。
家庭用バッテリー修理工は、割と大規模な工務店が扱っていることが多く、
雇用主と修理工が分かれています。
そこでは、誰がオイル交換をするのか、という点で、
雇用主は「修理工の責任だ」と言い、修理工は「雇用主が負担するべきだ」と言い、
お互いオイル交換をしたがりません。
結果、オイル交換がされないまま、ポンプの性能劣化は早く、消耗品として
扱われていました。これではオイル交換のメリットは機能しません。
また、性能が良く、短い時間で真空状態を作り出せる価値については、
真空状態を作り出す時間は、修理工は依頼主の家庭と雑談し、関係構築をする
貴重な時間と位置付けていたため、時間短縮に価値を感じません。
また、バッテリー修理には、大きな真空状態を作り出す必要があり、
新型の小型ポンプは、小さすぎて時間が今よりかかってしまうということも
わかりました。

家庭用冷蔵庫修理工の場合も、やはり時間短縮に価値を見出していないことが
大きな欠点となりました。

一方、小規模店舗冷蔵庫修理工の場合、
一般的に店舗は修理工務店と期間契約していることが多く、
修理時の関係構築の必要性がないため、時間短縮のメリットが大きい。
個人事業主が多いため、オイル交換を自分で実施ていることが多く、
オイル交換が不要になるのはうれしいし、コスト削減にもつながる。
結果として、彼らにとっては大きな価値となることがわかりました。
そして、次のステップとして、具体的な価格設定を検討するために、
オイル交換が不要となることで削減できるコスト(オイル代、人件費、
石鹸代、廃棄物処分代など)や、
時間短縮により、効率的に顧客を訪問できることで向上できる売上を
短縮時間数から割り出していくのです。

この事例は5Cの”Comprehend”の重要性を示してくれます。
実際に使われ方を見てみないと、価値を測定・把握できません。

Value Based Marketingの考え方は、
ざっと聞くと、「当たり前」というようにしか思えないかもしれませんが、
しかし実際にこれを実践することは、非常に奥が深い内容です。

この5Cのステップをうまく進めるための考慮点として、
1. 網羅的に顧客にとっての価値要素を洗い出す
2. 顧客にとっての価値を「言葉」で表現する
3. その価値を数値で表現する
ということが挙げられています。

そしてComprehendを効果的に実行するための具体的な行動は、
以下の手順を踏むことが重要です。

1. 顧客価値を評価・測定するチームを機能横断的に結集する
2. 価値を提供できそうな顧客セグメントを想定する
3. 顧客にその価値測定のための協力を取り付ける
4. 顧客のビジネスモデルを特定する
5. 顧客のビジネスモデルに対する商品の寄与内容を特定する
6. その寄与内容を金額で表現する

日本人は新興国ビジネスでの「マーケティング」がうまくないと言われています。
それは、日本で培った製品や技術の価値を、自分たちの経験に基づき推測し、
相手のビジネスモデルへの理解Comprehendを怠っているからかもしれません。
Comprehend, Create, Communicate, Convinceの流れを再度やり直すことで、
価格交渉に持ち込まれない商談ができるようにも思います。

また、社会起業家が製品の収益性が低い理由のひとつとして、
自分たちの信念が強すぎて「こうあるべきだ」と価値観をおしつけてしまい、
相手のビジネスモデルやライフスタイルにあった価値設定に失敗している
ということが、言えるかもしれません。

Value Based Pricingは、顧客獲得に難航している時や、
単価下落などで収益性が落ちてきている時に、
立ち戻って考えてみる、良いフレームワークだと思います。
特に、立ち上げ直後の会社(価値をうまく定められていない)や、
成熟した会社(顧客にとっての価値が変化している可能性がある)は、
ぜひ一度振り返って考え見ると、よいと思います。


カテゴリー: MBA講義内容 タグ: , , , , , , , , , , , パーマリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>